鉄道デザインと文字

5月 10th, 2009

23時からTBS系で放送された、デザイナー水戸岡鋭治氏を取材した番組を見ることができた。

4年前に取材のため久しぶりに九州に行き、昨年も行く機会があった。JR九州全域に水戸岡氏がデザインした鉄道車両が走っている。新幹線『つばめ』をはじめ『リレーつばめ』『Sonic』『かもめ』『ゆふいんの森』など、とても斬新なデザインの車両と出会うことができ、旅行の楽しさを増してくれた。通勤電車も都会的なデザインだし、一時間に一本というようなローカル線の駅で待っていても、斬新な真っ赤な車体デザインの車両がやってきて驚かされる。車両のデザインだけでなく、それぞれのロゴや文字のあしらいもユニークで、文字を見ているだけでもワクワクとしてくる。



↑九州新幹線:つばめ 車体の回り込みといった目につきにくそうな所まで、きめ細やかにロゴや文字がレイアウトされている。


↑九州新幹線の未開通区間、博多〜新八代をつなぐリレーつばめ。


ソニックにちりん 右上:ユニークなデザインの客席ヘッドレストをシンボル化したマーク。 左下:床板にロゴが刻印されている。

ゆふいんの森 右:運転席と客室の仕切に施されたロゴ

↑熊本と別府を結ぶ九州横断特急。途中にスイッチバックもある阿蘇の山間部を抜ける路線を走る。


↑特急の他、ローカル線や通勤車両もナンバリングや、車両表示がかっこいい。Helveticaは車両表示によく使われるが、こう使われるとまたひと味違って見える。

フリーになって間もない昨年、紹介を得て水戸岡氏の事務所にお伺いすることができた。紹介があったとはいえ、2時間以上も話を聞いて下さり、また、これまでの仕事のことなどを聞くことができ、一つ一つが重みのあるお話だった。ロゴや車両を飾る文字群は、決して予算が出ているわけではなく、ほとんどが自主的に提案されているそうだ。車両デザインには文字が欠かすことができず、それらをレイアウトしていくことも車両デザインとして重要だと仰っていた。確かに氏がデザインした列車は、車両番号を単純に表示するのではなく、グラフィックとして取り入れたり、ロゴのデザインも遊び心があったり、目につきにくそうなところの表示まで手を抜くことが無い。そして何より、常に子供たちが見ているこということが考慮され、楽しく、かっこ良くデザインされているように思える。氏を取材した番組でも、常に子供たちの視点を最優先に考えているように思えた。子供の頃に心ときめかせたブルートレインは姿を消してしまったが、JR九州のようなデザイン列車が今の子供たちの心に残って、次の代へと続いて行くのだろう。

子供の頃、近くを走る新幹線と阪急電車を見て描きテツに始まり、大学生になった時はプロダクトデザイナーになって地元のアルナ工機か近畿車両に就職したいと思っていた。いつのまにか文字に関わることになったが、いつか文字の側から車両デザイン、鉄道サインなどの仕事ができたらと思っている。

おすすめ amazon.co.jp
ぼくは「つばめ」のデザイナー—九州新幹線800系誕生物語』水戸岡鋭治著

アイスの日

5月 9th, 2009

5月9日は『アイスクリームの日』だそうです。最近こんなロゴとパッケージの仕事をしました。これから暑くなりますのでよろしかったらお楽しみください。

CD: 江崎グリコ広告部デザイン AD: 株式会社イングアソシエイツ Lo&D: Shotype Design

TDC DAY 2009

4月 5th, 2009

地下鉄丸ノ内線東高円寺駅12時22分。地下鉄の駅から女子美術大学杉並キャンパスまでは少し距離がある。開始に間に合うかと時計を見ながら急いで会場に向かった。

『TDC DAY 2009』と題されたデザインフォーラムは東京TDC賞の受賞者やゲストが自身の受賞作品や、近況について語るイベント。一番聞きたかったタイプデザイン賞の受賞者Emanuela Conidi(エマヌエラ・コニディ)氏は、昨年のFernando De Mello Vargas氏に引き続き、イギリスReading大学タイプデザインコース出身のデザイナーだった。Reading大学のタイプデザインコースは今年のNY TDCでもConidi氏の同級生であるDan Raynolds氏が入選し、多くの優秀な書体デザイナーを輩出する。TypeCon Seattleで知り合ったEben Sorkinさんが現在Reading大学で学んでいるが、彼のメールによると、ラテンアルファベットと、ノンラテンを同時に制作することが必須だそうで、それが幅広いアイデアと、ユニークなデザインが生み出される要因なのかもしれない。なかには日本語を選択しようとしている学生もいるらしくEbenさんから相談を持ちかけられたこともあったが、その後どうなっただろう。

左:gggで開催されたTDC展のフライヤー。右:フライヤー裏面に掲載されたタイプデザイン賞「Nabil」。

会場では学校の風景や制作の様子、スケッチ、書体見本を元に受賞作「Nabil」の解説が行われた。Nabilはラテンアルファベットとアラビックがペアになっている新聞用を想定して作られたフォントだそうだ。19世紀の本文用書体に影響を受けていて、ローマンは縦方向の印象が強く、しっかりとしたセリフと、高いコントラストを持ったデザインが特徴でイタリックはより尖ったフォルムが印象的で、インクトラップ(切り欠き)をローマンより大きく取り、それがデザインの特徴にもなっている。新聞用ということもあって、xハイトは大きく、アセンダ、ディセンダは短く設定され、キャップハイトはアセンダーよりもしっかり低く設定し、小さなサイズでもしっかりと大文字を拾うことができ、結果的にドイツ語などの大文字の頻度が高い言語でも読みやすいように設計されている。

アラビックでは、いろいろなスタイルを学びしながら、最終的にNaskhと言われるスタイルがヒントになったそうだ。Conidi氏はアラビア語は読めなかったそうだが、書く練習を重ねてペンの動きがどうなり、それがどのように文字の形に落とし込まれるかを研究して制作したと説明した。大学のアラビックの蔵書を参考にして、自分でペンを作って実際に書く練習をして、文字の形を学ぶことからはじめたそうで、時にはブリティッシュライブラリーやセントブライドライブラリーまで出かけ、コーランの写本やアラビックの書物を見て研究したそうだ。アラビックでは文字が単独で使われる場合と、先頭か、最後に来るかでも形が変わるため、一つ一つの変化を調べる必要があったそうだ。

また、もはやあたりまえとなったOpenType機能をフルに生かし、多言語に対応する発音記号(大文字用、小文字用を備える)、様々なリガチャやオルタネートキャラクタを備えて、幅広い組版に対応できるようになっている。

Reading大学サイトからダウンロードできる「Nabil」のPDF Specimen Bookをプリントしたもの。コンセプトから組見本までしっかり掲載され、TDC DAYのプレゼンテーションでもこの見本帳を基に紹介された。Readingのカリキュラムではこの書体制作以外に論文が必要となるそうだ。

その他、孫 浚良氏のユニークなプレゼンテーションや、 中村至男氏、 中村勇吾氏のW中村によるセッショントークなど、半日さまざまな文字に絡む話を楽しむことができた。

BRODY@ggg & Rocket

2月 11th, 2009

2月2日18時21分数寄屋橋交差点。Neville Brodyのトークショーを聞きにgggギャラリーに向かう。Neville Brodyと言うだけで年齢が分かるかもしれないというぐらい、学生時代は時の人だった。Fontographerで作った文字を駆使してグラフィックを生み出し、「フォント」という言葉をクローズアップさせ、間違いなく文字に興味を持つきっかけとなったうちの一人。

左:学生時代に買った『The Graphic Language of Neville Brody』。手頃な価格で手に入れることができた作品集。右:ggg主催のトークショーのフライヤー

想像していたよりも若い世代が集まった会場に入って来たBrody氏は、少し時の経過を感じさせるが、眼光の鋭い感じは健在。でも、「眠たくないか?寝てるんじゃないのか?」と聞いたり、しんと静まった会場で携帯電話が鳴ったかと思えば、陽気に「Hello?」と電話に応えてしまうユーモアでも観客をひきつけてくれる。

スライドで紹介される作品は、一瞬落ち着いた感じに見えたが、やはり文字の魅力や見せ方を熟知していて、大胆さがより洗練された感じがした。これまでのように要素にあえて動きをつけて生み出す躍動感とは違い、写真と文字との対比や、フォントウエイトのコントラストや文字のエレメントを大きく扱いビジュアルイメージとして展開するなど、ストレートな表現が多く見ることができた。Times紙のリニューアルプロジェクトなどは、強いロゴや見出しと明快なレイアウトで、それらの傾向が集約されたプロジェクトに思えてとてもおもしろかった。(なんと言っても読ませるための新聞という媒体にBrodyが取り組んだというのがうれしい!)

また、作品の中からは特にパッケージやエディトリアルといった作品を多く紹介し、AD&Dアニュアルに代表されるようなリアルなもの、手で触れることができる工夫、仕掛けを取り込んだ作品を、繰り返しphysicalというキーワードで説明していたのが印象的だった。ポスターをはじめとする平面作品が多い印象があったが、これまで平面の中で展開されていた立体的な表現が、徐々にパッケージやエディトリアルなど、リアルな世界に結実した感じがした。

後日、Rocketで行われていたNevil Brodyのギャラリー「Brody@Rocket」のにも出かけてみた。プレゼンテーションで紹介されたようなエディトリアルやパッケージの作品はなく、ポスター作品のみの構成となっていたのが少し残念だったが、これまでの作品を一覧できる展示となっていた。解説によれば、人気を博したがためにイギリスでは活動の場を失い、日本をはじめ海外での活動が主になったようだが、今回の滞在でも日本企業でプレゼンテーションが行われたようで、まだまだいろいろな活動が展開されそうな気配だ。

左:Brody@Rocket会場の表参道Rocket。2009年1月31日から2月10日までポスター展が行われた。右:Brody@Rocketのフライヤー。

関連:Typo Berlinでのプレゼンテーションの様子
Neville Brody – Where’s The Beef?

Neville Brody: role/play

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眼の前のニンジン

2月 4th, 2009

買った。どどーんと来た。今話題の書籍から汚れてしまって買い直したものまで。でもしばらくこのラップは開けられそうに無い。開けたら最後、やらなければならないことができなくなる。もう二週間もこの状態。

海外のサイトから買うことも多いが、なんだかんだ言ってもアマゾンが手軽だし、シッピングの不安も少ないので利用することが多い。在庫のあるうちに買わないとすぐに無くなって、再版まで時間がかかるものもあるので、手に入るうちに購入するようにしている。最近の為替の影響で、買ったときから既に計2000円ほど価格が下がっているのを見て凹んでしまうということもありますが…。

ここ数日、日本でも文字に関する書籍が相次いで出版されていて、気になっているものがたくさんある。書籍のコーナーも設けたいなと思ってちょこちょことまとめてるがなかなかカタチにならず。このニンジンたちも視界の隅に置きつつもう少し我慢。

「世田谷で見かけた書体」展とトークイベント

1月 18th, 2009

 —タイプハンターは一瞬で文字を捕らえる。発達した嗅覚ならぬ「字覚」は街に潜む様々な文字を見逃さない。一度狙いを付けたら文字の裏の裏まで、果ては文字を掲げる店の中まで入り込み味わい尽くす。—

14時45分東急田園都市線三軒茶屋駅。「世田谷で見かけた書体」展と作者の竹下直幸さんのトークイベントを見るために、世田谷文化生活情報センター「生活工房」に向かう。書体デザイナーである竹下直幸さんは、ご自身の書体のみでなく、街で見かけた文字を書体名とともに一つ一つ解説したブログが注目された方だ。『街で見かけた書体』と題されたブログは、書体デザイナーとしての職業柄あらゆる書体に精通した竹下さんが、独自の視点で街角の文字を捉え、ユーモアのあるコメントが添えられた、更新をいつも楽しみにしていたブログだった。2006年の一年間限定だったブログが休止した以後も、引き続きいろいろな街に繰り出し見かけた書体を、雑誌やトークショーで紹介されている。今回、世田谷区に地域を限定し、その中で見かけた書体を展覧会としてまとめ、その活動の詳細をトークイベントで紹介してくださった。

この企画は、生活工房でキュレーションを努める長谷川さんが竹下さんのブログに注目し、生活工房のある世田谷区を取り上げて欲しいと打診をしたのが発端だそうだ。この企画のために、すでに昨年8月頃から取材は始まり、世田谷区をくまなく巡って撮影された相当数の写真から厳選され展覧会として構成された。併せて展覧会が始まる前の昨年末から、「世田谷で見かけた書体」と題してかつてのようにブログも展開されて、企画を盛り上げていた。

トークイベントは2部構成で、前半は、看板、商店街、道路、公共、鉄道といった分野に括って紹介され、後半は番外編として竹下さんが特に気になったものが紹介された。商店街の看板から、広告、標識、果ては地面に埋め込まれた「道界」と呼ばれるものまで、街に何気なく存在する書体も、竹下さんのフィルターにかかれば急に活き活きして見えてくる。竹下さんが特に注目したという街角に設置されている「消火器」に表記された文字についての話を聞くと、大げさなではなく、防災に対する行政の姿勢、取り組みまでが見えてくる気がした。

△左:竹下直幸氏。右:取材中に使われた世田谷区の地図を紹介する長谷川氏。酷使されボロボロになってしまったそうだ。

番外編では、より竹下さんならではの視点で気になったことが取り上げられ、特定のモノに注目したり、書体ではないロゴや、時には脱線して探索中に食べた世田谷のうまいものまでに話が及んだ。その脱線が独自の視点につながり、真正面に見ていては見えないことも浮き彫りになってしまう。事前の調査無く街を練り歩き、本能にまかせて文字を嗅ぎ付けるように行動する様子は、冒頭に書いたように、まさに文字を捕らえるハンターをイメージさせるのだ。看板が気になったお店は中に入って食事もしてしまうが、うまいものを紹介するだけでなく、看板の文字とその店の料理が関連づけられて、あーなるほどと思えてくる。文字を探し求めるだけでどんどん街の姿が見えてくるのがとても面白かった。

質疑応答で、世田谷という限定の地域を巡ることで、他の地域との違いや世田谷ならではの特徴がありましたかと質問してみたところ、そういう特徴が浮き出てくることを期待していたが、書体の使い方や傾向などは残念ながら特になかったそうだ。ただ、行政の看板の設置の仕方や表記には隣接する区で違いが見えたり、他の地域に住む人だからこそ気がつくこともあったという。

△左:展覧会場。右:展覧会DMとトークショーで配られた展覧会用特製チロルチョコ。世田谷区の道界がモチーフになっている。

この展覧会で世田谷を取り上げたことで、他の22区への展開を期待する声もあるそうだ。とはいえ、この世田谷を巡るだけでも相当な奮闘ぶりが伺え、さりげなく紹介してくださる裏には、決して「たまたま見かけた」ということでは収まらない行動力が想像でき、簡単にいろんなところでできるものではなさそうだ。他の22区もという期待は欲張り過ぎとして、またどこかの地域で竹下さんが見かけた書体を紹介していただける機会を楽しみにしたい。

展覧会は世田谷区三軒茶屋の世田谷文化生活情報センター 生活工房ギャラリーにて2009年2月1日まで開催されています。

関連記事:ICOCA with 竹

2009年も宜しくお願いいたします。

1月 16th, 2009

2009年もはや半月が過ぎる。遅ればせながら今年も宜しくお願いいたします。今年はサイトを少し拡充したいという思いもありつつ、時間を決めてしっかりやらないと、いつまでたっても進みそうになく…。昨年から行っている富岡八幡宮へしっかりとお参りをして、目標に向かってコツコツとまいります。今年はどんな文字の出来事と出会いがあるのかと楽しみにしつつ。

書体デザインプロジェクト記事のご案内

12月 8th, 2008

11月1日発売のAXIS12月号vol.136に、Type Project参加時代に関わることができた書体デザインプロジェクトについての記事が掲載されています。ご興味のある方はご一読ください。

AXIS12月号vol.136:Topic 『ドライバーのための新書体』

関連:タイププロジェクト日記:ドライバーのための新書体

《追伸》
年内はこの投稿で最後となりそう。未だにテスト版としてなんとか走り続けているこのサイト、見切り発車もいいところだし、後半は投稿する時間を取る工夫もできなかった。来年こそちゃんとまとめられたらいいんだけど。そして来年も文字の話題が豊富でありますように!

『対/組』というコンセプト。

11月 5th, 2008

なんじゃこれは?!もんじゃ焼きに文字など書いている場合ではなかった。

浅草から東京国立博物館「大琳派展」に向かった。展示室に入って思わず声を上げた。奇才ぶりを表現するには変な言葉しか出ない。ブツブツ言うのを隠すのにずっと口に手を当てて見入ってしまった。展示作品の多くはこれまでにもいろいろな展覧会で見たことがあったが、こうやって総覧できるとまた見方が変わる。前回の「対決-巨匠たちの日本美術」展でも俵屋宗達/尾形光琳の「風神雷神図屏風」を見たが、今回はさらに酒井抱一、鈴木其一まで加わった。それぞれの違いや特徴が比較して見ることが出来て面白いが、やっぱりこれを始めに描いちゃった俵屋宗達はすごいなと思うのであります。また、その後それぞれに我が道を極めて行って世界を作り出し、尾形光琳の「蔦図香包」や「三十六歌仙図屏風」はかっこいいし(紅白梅図屏風が見れなかったのは残念)、酒井抱一の「十二ヶ月花鳥図」はやっぱり素敵だった。

展示作品を通して目をひくのが「対/組」というコンセプト。対の屏風、軸や襖絵、扇の表裏、「風神雷神図」のみならずあらゆる作品に「対」という仕掛けがある。昔から「対/組」というものになぜか惹かれ、双子に憧れるし、仏像は「日光/月光菩薩像」や「仁王像」「四天王像」「十二神将像」などが好きだった。ピンでも素敵だが、全く性格の違うもの同士が、相方がいることでより際立ち「1+1=2」では言い表せないものが加わるように思えるからかもしれない。今回の一番、俵屋宗達の「京都・養源院の杉戸」はその絵が素晴らしかっただけでなく、表裏、阿吽、四組とくすぐるコンセプトが盛り込まれていた。

対をなさなくても良い。「俵屋宗達の絵に本阿弥光悦の書」というコラボレーションも素敵で、二人にどういったやり取りがあったのかなどを勝手に想像してしまうのも面白い。そういう想像が、文字でいえば、例えば「ローマンとイタリック」のようなコンビとしてお互いが引き立つ魅力って何だろう?ウエイトや字幅など直線的な変化ではないファミリーはどうだろう?という考えにおよぶ。アイデアをそぎ落とすべきとはわかっていても、つい、どうなるの?と考えを巡らせてくれるのだ。「対/組」という考え方は琳派だけのものではないのだろうし、歴史的な考察はがどうなのかわからないけど、「風神雷神図」の存在ってやっぱり大きいものだったんだろうかと思った。

風神と雷神を一つづつ隠して見てみた。お互い視線を合わせていないのに、相手の位置をしっかり把握しているように見えるのがおもしろかった。

△東京国立博物館 平成館

もんじゃってなんじゃ?

11月 5th, 2008

12時48分地下鉄銀座線浅草駅。もんじゃ焼きでも食べてみるか。上野に用事があり、せっかく食べるならちょっと浅草まで足を伸ばすかとやってきた。いろいろな制服の修学旅行生の間を抜け、雷門をくぐり浅草寺近くの「ひょうたん」という店に行く。昼も過ぎたがテレビでも取り上げられたこともあってか、店の前には10人近くが並んでいたので、順番待ちの名前を書いて待つことにした。関西出身の自分にとって、正直お好み焼き、たこ焼きを差し置いてまでして、わざわざもんじゃ焼きを食べようとは思っていなかったが、東京に出て3年、まぁ一度くらいは程度に思っていた。


△ご存知浅草雷門(上)。どどーん(左下)。浅草「ひょうたん」(右下)

ところが、長い順番待ちをしつつ、何気なく目に入ったメニュー横の『もんじゃ焼きの由来』という説明書きに、『もんじゃ焼きの呼び名は生地がゆるく、鉄板の上に“文字”を書いて遊んだことから「文字焼き(もんじやき)」となり…』と書いてあるのを見た途端に一気にテンションが変わる。長く待たせられたイライラも吹き飛び、まだかまだかと中を気にして覗き込む。店員に呼ばれるが先に店の中に入りテーブルに着いた。ここはシンプルにベーシックな「江戸もんじゃ」を注文。すぐに持ってきてくれた具が入った器を持って、テーブルに置かれたもんじゃ焼きの作り方を読みながら具を鉄板に流し込む。鋳造の開始だ。具で円形の土手(母型?)を作りゆるゆるの汁を真ん中に流し込んだ。やはり初めての経験なので勝手がわからず、となりの席の様子をうかがいながら汁と具を混ぜ合わせる。だんだん粘りが出て来たところでいよいよ文字の鋳込みの開始だ。もちろん迷わず「文」をコテで書いてみる。こんなお行儀の悪いことをして大丈夫かと思いつつも、何度か試してみるが、なかなか形がうまくとどまらない。他の文字も試してみたが、形をとどめておこうとするのは難しい。書いても書いてもすぐに文字は消えて行く。波打ち際の砂浜に、書いては消える文字が…と言えばロマンチックかもしれないが、もんじゃ焼きの生地にそういうムードは持ち合わせない。なんとかベストショットをカメラに収めて、鋳造したてのもんじゃ焼きを口に運んだ。



△材料(左上)。具材で土手を作り(右上)。汁を流し込む(中央左)。リズムよく混ぜて(中央右)。これがまさしく「もんじゃ焼き」

うまいな。味はしっかりしているし、ビールが欲しくなる。次に予定が控えていたのであきらめたが、夏場にビールでやるというのもうなづける。猫舌も心配したが、思ったよりもパクつくことが出来た。お好み焼きやたこ焼きとは全く別の食べ物だ。やっぱり食事としてというよりは、ビールのアテかおやつにしかならないかなぁとは思うものの、文字を書きながらチビチビつついて文字の話をしてみるのも良いもんだなと思った。浮かんだタイトルが「もんじゃってなんじゃ?」というベタ路線では、大した話も出来ないと思うが…。