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TDC DAY 2009

日曜日, 4月 5th, 2009

地下鉄丸ノ内線東高円寺駅12時22分。地下鉄の駅から女子美術大学杉並キャンパスまでは少し距離がある。開始に間に合うかと時計を見ながら急いで会場に向かった。

『TDC DAY 2009』と題されたデザインフォーラムは東京TDC賞の受賞者やゲストが自身の受賞作品や、近況について語るイベント。一番聞きたかったタイプデザイン賞の受賞者Emanuela Conidi(エマヌエラ・コニディ)氏は、昨年のFernando De Mello Vargas氏に引き続き、イギリスReading大学タイプデザインコース出身のデザイナーだった。Reading大学のタイプデザインコースは今年のNY TDCでもConidi氏の同級生であるDan Raynolds氏が入選し、多くの優秀な書体デザイナーを輩出する。TypeCon Seattleで知り合ったEben Sorkinさんが現在Reading大学で学んでいるが、彼のメールによると、ラテンアルファベットと、ノンラテンを同時に制作することが必須だそうで、それが幅広いアイデアと、ユニークなデザインが生み出される要因なのかもしれない。なかには日本語を選択しようとしている学生もいるらしくEbenさんから相談を持ちかけられたこともあったが、その後どうなっただろう。

左:gggで開催されたTDC展のフライヤー。右:フライヤー裏面に掲載されたタイプデザイン賞「Nabil」。

会場では学校の風景や制作の様子、スケッチ、書体見本を元に受賞作「Nabil」の解説が行われた。Nabilはラテンアルファベットとアラビックがペアになっている新聞用を想定して作られたフォントだそうだ。19世紀の本文用書体に影響を受けていて、ローマンは縦方向の印象が強く、しっかりとしたセリフと、高いコントラストを持ったデザインが特徴でイタリックはより尖ったフォルムが印象的で、インクトラップ(切り欠き)をローマンより大きく取り、それがデザインの特徴にもなっている。新聞用ということもあって、xハイトは大きく、アセンダ、ディセンダは短く設定され、キャップハイトはアセンダーよりもしっかり低く設定し、小さなサイズでもしっかりと大文字を拾うことができ、結果的にドイツ語などの大文字の頻度が高い言語でも読みやすいように設計されている。

アラビックでは、いろいろなスタイルを学びしながら、最終的にNaskhと言われるスタイルがヒントになったそうだ。Conidi氏はアラビア語は読めなかったそうだが、書く練習を重ねてペンの動きがどうなり、それがどのように文字の形に落とし込まれるかを研究して制作したと説明した。大学のアラビックの蔵書を参考にして、自分でペンを作って実際に書く練習をして、文字の形を学ぶことからはじめたそうで、時にはブリティッシュライブラリーやセントブライドライブラリーまで出かけ、コーランの写本やアラビックの書物を見て研究したそうだ。アラビックでは文字が単独で使われる場合と、先頭か、最後に来るかでも形が変わるため、一つ一つの変化を調べる必要があったそうだ。

また、もはやあたりまえとなったOpenType機能をフルに生かし、多言語に対応する発音記号(大文字用、小文字用を備える)、様々なリガチャやオルタネートキャラクタを備えて、幅広い組版に対応できるようになっている。

Reading大学サイトからダウンロードできる「Nabil」のPDF Specimen Bookをプリントしたもの。コンセプトから組見本までしっかり掲載され、TDC DAYのプレゼンテーションでもこの見本帳を基に紹介された。Readingのカリキュラムではこの書体制作以外に論文が必要となるそうだ。

その他、孫 浚良氏のユニークなプレゼンテーションや、 中村至男氏、 中村勇吾氏のW中村によるセッショントークなど、半日さまざまな文字に絡む話を楽しむことができた。