Archive for the ‘Shotype’ Category

応募書類

土曜日, 6月 26th, 2010

合格以前のことを少し振り返ってみる。KABK Typemediaコースへの応募は、パスポートのコピーや芸術系大学の英文の卒業証明書、履歴書などの基本書類に加え、ポートフォリオとモチベーションを記した英文のレポートによる書類審査のみで、試験やTOEFLやIELTSなどの英語資格は必要無かった。1月31日が締め切りだったにも関わらず、迷いに迷ったあげく応募を決めたのが締め切り一週間前。寝ずに書類を整えEMSで書類を送付したのが1月27日で、その時点でレポートは間に合わず、30日にメールで送付した。ポートフォリオは現物が良いのかと思い込んで一生懸命作って送付したが、応募要項をよく読むと「Digital portfolio」と書いているのに気づき、あわててPDFに作り直した。ちょうどこの頃KABKではOpen Dayが開催され、その時に直接持ち込んでも良いとされていたが行くことはできなかった。そして、応募したあとしばらく何も連絡がない日が続く。

取り越し苦労

土曜日, 6月 19th, 2010

ようやく一通りの書類が揃って来た。外務省に出向いてアポスティーユの申請を済ませ、ほとんど日本で取得すべき書類は終わるはず。あとはハーグに渡って現地での住民登録や滞在許可の申請などを行うことになる。あれこれ調べ、時差を考慮しながら学校に問い合わせたり、大量の書類を読み込んだりを、仕事と並行しつつするのは神経が減るし、いろいろ考えないといけないことが多すぎて、もう行けないんじゃないかと思うくらいのときもあったが、全て取り越し苦労。終わってみたらそれほど大したことは無かった。日本国籍は他国に比べてハードルは低く、ビザも必要ないし、滞在許可も現地へ行ってから申請すればよく適応検査などの必要も無く、まだ簡単な方なのかもしれない。家人とともに渡航を予定していたが留学生へのパートナービザは難しいらしくこの点だけが残念だ。

渡航手続き用書類の準備

土曜日, 6月 5th, 2010

パスポートの更新を手始めに、渡航に必要な諸々の書類の申請をはじめる。学校からは何も案内もなく、ホームページを見よということだろう。現地滞在の複雑な仕組みを理解しつつ何が必要なのかを調べて行く。駐日オランダ大使館にはじまり、オランダの移民局や海外留学生向けのサイトなど、全て英語のページを辞書を調べつつ読んで行く。時には40ページ以上もあるPDFをいくつもプリントしてどれに該当するのか細かい項目を読み解いて行く。条件や用意する書類の多さなどを見ると、旅行するのとは違って、国境を越えて滞在するということのハードルの高さを感じている。

ちなみに駐日オランダ大使館をはじめオランダ政府の制定書体となっているのはKABK Typemediaコース教授、Peter Verheul氏のRijksoverheidという書体です。

もう一つの候補

土曜日, 5月 29th, 2010

メーリングリストで回っていた物件を逃してしまい、さてどうしたものかと思っていたら、Typemediaコースの教授であるPaul van der Laan氏からメールがあり物件を紹介してくださった。Laan氏はAudiのコーポレートフォントなどをデザインしたタイプデザイナーで、数年前に知人のデザイナーを経由して日本語フォントのことで問い合わせを受けたことがあった。その時のことを憶えて下さっていて、合格者名簿に名前を見つけ、メールを送ってくれたとのことでとてもうれしかった。

自力で物件を探していたが、なかなかハーグの事情も分からず、いくつかの不動産サイトにメールを出してみたがどこからも返事が無い。現地に住む人から情報を得ると、探していた地域は治安や風紀の悪いところもあるようで日本からそういう場所は掴みにくい。Laan先生に紹介してもらった物件は期間が4ヶ月だけという条件のものだが進めてみることにした。4ヶ月だけでもそこを足がかりに探してみるのも良いかもしれない。

先輩からのメーリングリスト

土曜日, 5月 22nd, 2010

オランダ滞在で一番気になるのが住まいのこと。正式な入学許可を得る前に、現在Typemediaに通う学生から今回の合格者に向けて部屋の移譲の案内がメーリングリストになって配布された。学校は住まいの斡旋はしていないらしく、独自で手配しなければならない。だから、次の学年の生徒に受け継いで行くのが慣習になっているのだろう。いくつか良さそうなものがあったが、相場や設備で迷っていたら、他の人が交渉に入ってしまったようだ。早く決断すべきだったが、後の祭り。迷いは禁物、早く交渉すべきだった。また住まい探しは振り出しに。

渡航前最後の帰省

日曜日, 5月 16th, 2010

一旦実家に戻り必要書類を揃えて両親に報告をし、大阪のデザイン仲間やクライアントまわりをして挨拶をする。皆さん喜んで下さったが、毎年お世話になっていながら一年間日本を離れるのは本当に申し訳ない。一年といえども仕事を中断して行くということは大変なことだ。

KABKへの道

木曜日, 5月 6th, 2010

30代最後の一年が始まりました。ここで今後の予定をお知らせさせていただきます。2010年8月末をもってデザイナーを一旦休業します。そして9月から学生に戻ることになりました。入学する学校はオランダ、ハーグにある王立芸術アカデミー(Koninklijke Academie van Beeldende Kunsten Den Haag)、通称KABKのType & Mediaコースでタイプデザインを学べることになりました。半年以上も日本語ブログは怠けておりましたが、今後はしばらくKABK Type & Mediaコースへの入学までと、ハーグでの生活を中心にレポートすることができればいいなと思っています。

と言いつつ、内定の通知をメールで頂いたものの、書類もまだ届きませんし、本当に合格したのか分からないという状態です。海外での生活は経験なく、あまりの準備の多さにわずか3ヶ月少しでKABKに辿り着くことができるかどうかも自信がありません。もうすぐ期限が切れそうなパスポートの更新から始めるという有様です。いつかぷっつりと更新がされなくなったら、お察しください。

登美の丘ワイナリー100周年

土曜日, 9月 26th, 2009

JR新宿駅10番ホーム午前9時00分。9時ちょうどの「あずさ9号」で甲府へ。登美の丘ワイナリーの100周年ロゴのデザインを担当した記念に100周年記念イベントツアーの一つへ申し込む。峠のトンネルを抜け甲府盆地にさしかかる電車。車窓に広がるブドウ畑。

イベントまでの時間に山梨県立美術館でミレーの常設展。昼食にほうとう。集合時間5分前に甲府駅に戻る。

ツアー専用シャトルバスに乗り約20分で登美の丘ワイナリーへ。狭い山道を抜けると古く趣のある白壁、静かな敷地。受付で100周年ロゴ発見。展示室前でも。サインにはサントリー書体。庄内醸造技師長の案内でいよいよ工場内へ。夕刻開始のため既に作業は終了、静かな工場内を見学。丁寧に手入れされ、清潔感が漂う構内。今は使われなくなったブランデー用の蒸留ポット。攪拌中の白。山肌をくりぬいて地下に作られたセラー。冷んやり。眠るワイン樽。壁一面にワイン瓶が納められている貯瓶庫。何万本?外に出たとたんメガネが曇る。



再びバスに乗り普段は立ち入れない農園を見学へ。スイッチバックの道。自然が豊かなブドウ畑。葉の緑から顔を出す濃紫のメルロー、緑鮮やかなシャルドネ。農園一の高台からのワイナリーの眺めが素晴らしい。夕暮れ、赤く染まりだす南アルプス。あいにく雲に隠れた富士山。ブドウ畑に降りて収穫間近のメルローを食べさせてもらう。甘い!ワイン用のブドウのおいしさに感動。



黄昏。瞬きだす甲府盆地の夜景。5種のワインと甲府特産食材によるトワイライトディナー。料理によって変わるワインの味。初めての経験。技師長の楽しいワイン解説。スタッフの胸にも100周年ロゴ。こんな素晴らしいワイナリーの100年という節目に仕事で関われたことは本当にうれしい。次の100年に乾杯。

左:後日サントリーさんより送っていただいた登美の丘ワイナリー100周年記念ボトル(非売品)右:登美の丘ワイナリーのことが詳しく書かれた『サントリークォータリー88号』

パッケージに使われる手書き文字。

月曜日, 7月 20th, 2009

前の投稿でカリグラフィーとパッケージデザインの関わりを模索していると書いたが、全く行われていないのではなく、既にたくさんのデザインは出ている。カリグラフィーというよりも、少し範囲を広げて手書き風の文字と言った方が良いかもしれないが、ここ最近、そういった文字の扱い方が目立つようになって来た。これだけたくさんフォントがあっても、イメージに近いフォントを探すよりも作ってしまった方が早いかもしれない。

ある種のユルさを演出することで親しみやすさを狙いたい時は、例えばメモ書きのように書いて、遊びを感じさせることもできるし、逆に勢いのある力強いストロークで、キレとインパクトがある表情を演出することもできる。フォントでもできないわけではないが、同じキャラクタが繰り返してしまうフォントをそのまま使うと、ロゴとしては単調な表情になってしまいかねない。うまく使い分けることで、奥行きのあるデザインを生み出すことができるように思う。



最近集めていたものからピックアップしたパッケージデザイン。割と飲料系によく見られる手書き風の文字。中にはカリグラフィーのように見えて実はフォントなものもあるし、文字のデザインとしてはどうなのかと思ってしまうものもあるが、商品ロゴとしてでなくフレーバー表示やグレード表示にワンポイントで使って、少しリッチなイメージを演出したり、シズル感を強調したりすることに貢献していると思う。

カリグラフィックな文字をロゴに使いたくても、誰に頼めば良いのか分からないということもよく聞く。最近はカリグラフィックなロゴのリクエストも多い。実は潜在的な要望は高いのではないかと思う。先日のレターアーツ展などを見ると、あれだけたくさんのカリグラファーがいるのだから、何かうまく接点を持つことができないだろうかと考えてしまう。アートとデザインの折り合いをどのようにつけるかとか現実問題はいろいろとありますが、文字の活躍できる舞台が少しでも広がれば良いなと思っております。

待ち時間120分の魅力。

金曜日, 6月 5th, 2009

13時45分JR上野駅。しとしと降る雨の中を国立博物館へ向かう。最近忙しくまたすっかり忘れていて、先日行った資生堂・サントリー展の帰りに気がついた『国宝 阿修羅展』。調べると会期は明後日までに迫り、慌てて今日に設定した。待ち時間も覚悟したとはいえ、行列は正門に迫り120分との掲示。行列のできる店には絶対行かない主義だが、最近の忙しさの反動で、待つという時間の無駄遣いもしてみたくなったので最後尾についた。ゆっくり降る雨は嫌いでなく、庭園の木々を見ながら自宅の庭の木と比べたりして時間をつぶすのも悪くは無い。

右:雨が降った方が人が少ないんじゃないかという考えは浅はか。傘で余計に身動きがとりにくく時間がかかる。後で知ったが、もうこの時点で日本美術の最高入場者数を更新していたらしい。

玉や金などの鎮壇具が展示された第一章に始まり、第二章では阿弥陀三尊像が素晴らしく、柔らかく上昇感のある曲線で表現された蓮の文様と、波打つ水をリズム感のある曲線で様式化された表現の蓮池が美しい。その奥には4体の龍が絡み合い、見事なシンメトリーのシルエットを作る「華原磬:かげんけい」を見て、八部衆、十大弟子の並ぶ大空間に移った。

十大弟子の微妙な表情の違いも面白いが、やはりそれぞれの様相に個性のある八部衆がおもしろい。幼顔で眉をひそめ、頭に蛇を載せた「沙羯羅:さから」は愛らしいく、顔が鳥になっている「迦楼羅:かるら」は、今にもくちばし横の肉垂れを揺らしながら首を振りそうだ。頭に象を載せやや上目遣いの「五部浄:ごぶじょう」は、胴体以下はほとんど欠損しているが、わずかに残った腕を見ながらどのようについていたかを想像するのも面白い。興福寺国宝館で狭いガラスケースに一列に並べられた様子とは全く違い、広い空間にそれぞれの専用の台が設けられ、柔らかい光線に包まれて、鎧に施された細かい文様まできれいに浮かび上がっている。大きな舞台に立っているせいか、どこか誇らしげにも見え、陳列される場所でこうも表情が変わるものかと思った。

そしていよいよ、八部衆の中の一体でありながら見事主役に抜擢された阿修羅像の展示室に移る。室内へ続く通路にまで係員の声が響き異様な空気が感じられたが、入って室内の混雑ぶりに驚いた。国宝仏像が展示される場合、像の向かいにデッキが設営されることが多いが、そこから見下ろすと、阿修羅像の周囲にもぎっしりと人が集まって、身動きが取れない状態になっている。押し合いへし合いしている人の中央に立たされている阿修羅像はあきらかに困惑気味だ。いや左の阿修羅は少し怒っている。右側は冷静を保とうとしているのか涼しい顔に見えるが、少し危険な状態にさえなりつつある展示台周辺の押すな押すなの状況に、絶妙なバランスで姿勢をとり続ける阿修羅像が滑稽に見えた。まさか自分が上野まで連れてこられてパンダになろうとは思っていなかっただろう。阿修羅だけは国宝館の静けさに早く戻りたいのかもしれない。

覚悟を決めてデッキを降りて阿修羅像の背後に回るが、祭りのようにもみくちゃにされながらの鑑賞は初めてだった。一体この人気は何なのだろう。三面六臂という異様な容姿でありながら、端正な顔つきに憂いの表情。華奢で現代でも通用しそうな草食系美少年が三人も揃っているのが魅力なのだろうか。細かい文様を見る間もなく、気になっていた後ろ二つの頭のつながり方だけ「ははーん」と思えるのがやっとで、押し出されるように展示室を出る。

興福寺には何度も行ったことがある。というより奈良公園付近での寺社見学の後は必ず興福寺に辿り着くので、ライトアップされた五重塔を見ると一日が終わった気がする場所だ。興福寺の仏像は南円堂、北円堂を含めほとんど見たことがあり、阿修羅像も国宝館に常設されているのを見た。今回の展示よりはるかに近寄って見られるものの、国宝館はその名にふさわしいとは思えない設備で薄暗く、ガラスケースに所狭しと仏像が並べられていて資料館の趣に近い。この展覧会では東京国立博物館お得意の美しいライティングに加え、設営方法も博物館ならではの工夫がされていて、仏像ファンにはたまらない背面鑑賞もできたのがよかったが、人の多さだけは何とかならないものか。早めの来館を心がけるしか無いか。

時々登場する文字に全く関係ない日本美術のトピック、いずれ別コーナーにまとめます。無理やり盛り込むのもなんですが、今回の展示キャプションにはタイトルにAXIS Font Basicが使われていた。花鳥文様など有機的なフォルムが特色な日本美術に、あえて明朝体ではなく無機質さのあるゴシック系書体を使うというのも、端正な顔立ちの阿修羅像を主役にした展覧会には合っているかもしれないと思った。

左:阿修羅像をはじめ、興福寺の仏像について特集された芸術新潮2009年3月号。右:展覧会の図録とポストカード。