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奈良墨を訪ねて

月曜日, 4月 21st, 2008

大阪への出張のおりに訪れた奈良は新緑の季節で天気も良くとても気持ちよかった。

お目当ては新薬師寺の十二神将像。仏像マニアの心をくすぐる国宝である。奈良中心街の寺社にはほとんど行っていたが、新薬師寺だけは少し離れたところにあるので、まだ行けていなかった。

JR奈良駅でたまたま手に取った観光ガイドの墨の写真に目が留まり、新薬師寺への途中にあるようなので行ってみることにした。これまでは近鉄電車を使うことが多かったが、最近になって実家の最寄りから奈良へのJRの直通電車が開通したので初めてJR奈良駅で降りてみたが、こちらの方が町並みも古く風情があって発見も多かった。

駅から10分程でガイドに紹介されていた「松寿堂:しょうじゅどう」に着いたが、いざ外観を見ると高級そうな老舗に思えてしばらく入るのをためらった。しかし、せっかく来たんだしと思い切って入るとご主人と奥様がとても気さくに出迎えてくださりほっとする。

屋内も純和風の設えで、土間からの上がり口(この部分をなんて言うんだっけ?)に墨がきれいに並べられていた。ちょうど向かいにある階段状の箪笥が印象的で、落ち着いたとても素敵な雰囲気だ。

ご主人に一つ一つ商品を見せていただきながら、墨の作り方やお店の歴史などをうかがった。なんでも、室町時代頃から奈良の興福寺のお坊さんが写経をするのに墨を大量に必要としたのが始まりだそうで、「奈良墨」と呼ばれるそうだ。以前は多くの墨屋さんがあったらしいが、墨は公害の原因ともなるため敬遠されたこともあり、今ではこの町内にあるのは松寿堂さんだけになってしまったらしい。

その他にも梨の木で作られたという墨の押し型もわざわざ奥から出してくださり、とても細かい龍の柄について丁寧に解説していただけた。文字を凸にした木型もあり、木活字のようだった。

以前見たヘルマン・ツァップさんの短編映画 “The Art of Hermann Zapf” で墨を摺っていたことを思い出し、東洋だけでなく西洋のカリグラファーも墨をインクとして使っていることをご主人に話すと、「今度からその話を使わせてもらいます。」とうれしそうに話されていた。

鹿の形をしたかわいい墨を2つ購入。きれいな桐箱に入ってインテリアとして置いても良いなと思う。もっとじっくりお話をお聞きしたかったが、残念ながら新薬師寺の閉門時間が早いのでおいとますることにした。もう一度来てゆっくりお話をお伺いできたらと思う。

(上) 新薬師寺からの帰りに見つけたもう一つの墨屋さん「古梅園:こばいえん」の看板と暖簾。 (右下) 墨という文字がシンボリックでかっこいい。