Archive for 9月, 2009

登美の丘ワイナリー100周年

土曜日, 9月 26th, 2009

JR新宿駅10番ホーム午前9時00分。9時ちょうどの「あずさ9号」で甲府へ。登美の丘ワイナリーの100周年ロゴのデザインを担当した記念に100周年記念イベントツアーの一つへ申し込む。峠のトンネルを抜け甲府盆地にさしかかる電車。車窓に広がるブドウ畑。

イベントまでの時間に山梨県立美術館でミレーの常設展。昼食にほうとう。集合時間5分前に甲府駅に戻る。

ツアー専用シャトルバスに乗り約20分で登美の丘ワイナリーへ。狭い山道を抜けると古く趣のある白壁、静かな敷地。受付で100周年ロゴ発見。展示室前でも。サインにはサントリー書体。庄内醸造技師長の案内でいよいよ工場内へ。夕刻開始のため既に作業は終了、静かな工場内を見学。丁寧に手入れされ、清潔感が漂う構内。今は使われなくなったブランデー用の蒸留ポット。攪拌中の白。山肌をくりぬいて地下に作られたセラー。冷んやり。眠るワイン樽。壁一面にワイン瓶が納められている貯瓶庫。何万本?外に出たとたんメガネが曇る。



再びバスに乗り普段は立ち入れない農園を見学へ。スイッチバックの道。自然が豊かなブドウ畑。葉の緑から顔を出す濃紫のメルロー、緑鮮やかなシャルドネ。農園一の高台からのワイナリーの眺めが素晴らしい。夕暮れ、赤く染まりだす南アルプス。あいにく雲に隠れた富士山。ブドウ畑に降りて収穫間近のメルローを食べさせてもらう。甘い!ワイン用のブドウのおいしさに感動。



黄昏。瞬きだす甲府盆地の夜景。5種のワインと甲府特産食材によるトワイライトディナー。料理によって変わるワインの味。初めての経験。技師長の楽しいワイン解説。スタッフの胸にも100周年ロゴ。こんな素晴らしいワイナリーの100年という節目に仕事で関われたことは本当にうれしい。次の100年に乾杯。

左:後日サントリーさんより送っていただいた登美の丘ワイナリー100周年記念ボトル(非売品)右:登美の丘ワイナリーのことが詳しく書かれた『サントリークォータリー88号』

Reading卒業生との交流。

月曜日, 9月 7th, 2009

14時10分西武池袋線石神井公園駅北口。イギリスReading大学でタイプデザインを学び、ノンラテン課題として日本語に取り組んだ卒業生が来日するというので待ち合わせた。

京都市立芸大学の後輩でイギリスLondon College of Printing(現London College of Communication)の
Typo/Graphic Studiesに留学経験のある木村君へ、留学時代の友人から、Reading大学を卒業したÉmilieさんと知人のグラフィックデザイナーのXavierさんが日本に旅行に行くので、その際にÉmilieさんがデザインした和文について意見が欲しいと連絡があったそうで、木村君から一緒に見て欲しいとお誘いを受けた。折角なら和文フォントをデザインしているタイプデザイナーから直接話していただいた方が良いと思い、Type Projectへ訪問させていただくことにした。先日字游工房から独立されたヨコカクの岡澤さんにも参加いただいて、ちょっとした交流会になれば良いと企画した。

以前のトピックでも少し触れたが、実はÉmilieさんのことは、シアトルTypeConでお会いしたEbenさんからも聞いていて、日本語のデザインをしているクラスメイトがいて相談に乗って欲しいと聞いていた。その後連絡が無いなと思っていたが、日本に来るということを木村君から聞いて驚いた。Émilieさんの進捗が良く無く連絡できなかったそうだが、メールでのやりとりになるかと思っていたので、直接会って話ができたのはとてもうれしい。

いつも海外からゲストが来たときは初めはどうなることかと心配するが、文字の共通点があればすぐにその話で盛り上がる。Type Projectが起ち上げた都市フォント(cityfont.com)プロジェクトのことや、Driver’s Fontプロジェクトについて見てもらい、Émilieさんからはヨーロッパでの文字のトレンドやタイプデザイン界の状況、Reading大学のカリキュラムなどを聞いて文字についての情報交換をした。やっぱりこちらで感じることと実際にそこで暮らす人の感覚は違い、いろいろと面白い話を聞くことができた。

そしていよいよÉmilieさんが取り組んだ書体について話していただく。ÉmilieさんのColineという書体は、フランスでは一般的なポケットブックという大きさの書籍(新書サイズぐらい)の本文用として制作された。ポケットサイズに使われる書体にはバリエーションが無く、クオリティの低さに不満を持っていたようで、課題として取り組んだそうだ。

左:Émilieさん(左)が持参した見本帳を見ながらいろいろと質疑応答。右:だんだん熱が入ってくる。

文字一つ一つを大きく拡大するとラフな感じに見えるが、本文として組むとラフな印象が手書きのようなランダムさを演出するのにうまく働いて、レタースペースは心地よく柔らかな印象に見える。ストロークも大胆なせいか、小さいサイズでもわりとはっきりと見えた。フォントのファミリー構成も太さや字幅の直線的なファミリー構成だけでなく、目的に応じていろいろと選べる異なるスタイルを同じファミリーとしたことなど、コンセプトもしっかりと練られて制作されていた。

このフォントに合う和文(かな)に挑戦しているというÉmilieさん。まだキャラクタ全ては揃っていないが、現段階でできているデザインについていろいろと質問があった。かなは筆順から来る形状が漢字に比べて強く残っていることや、字幅のことなどを実際に書き込みながら解説してやりとりをする。

左:直接見本帳に書き込んで説明するÉmilieさん。右:最後に記念撮影。左からXavier Antinさん、Émilie Rigaudさん、木村さん、タイププロジェクト鈴木さん、タイププロジェクト両見さん、ヨコカク岡澤さん。

イメージを合わせるにはどうするかなどの質問もあったが、Colineはカーシブスタイルが強く残る書体でもあるし、かなも脈略をうまく使えばイメージを合わせやすいのではないかと思った。日本の書体で本文用としてこういうスタイルは無いし、整えていくデザインが多い中で、あえて、ラフな印象を残しているというのは新鮮なアイデアになりそうで興味深かった。引き続き残りのキャラクタなどを制作を続け、販売することを計画しているそうだ。

わずか3時間ほどの滞在だったが、楽しんでいただけたようでなによりだった。日本語に取り組む海外のタイプデザイナーと言えば、モリサワ賞でも受賞したJoachim Muller-Lance氏のことが浮かぶが、今後も日本語に取り組む海外のデザイナーも増えてくるかもしれない。ネイティブではない言語に取り組む難しさはとても良く理解できるし、日本にまで来て意見を聞こうとする姿勢に何より刺激を受けた。次はこちらがイギリスかÉmilieさんの母国フランスに行かせてもらおうかな。

Émilieさんが制作したColineの見本帳。PDF版がReading大学のタイプデザインコースのサイトよりダウンロードできます。