日本・ベルギー レターアーツ展 Line and Spirit

16時45分。みなとみらい線馬車道駅。ジャパン・レターアーツ・フォーラム(J-LAF)主催の「日本・ベルギーレターアーツ展 Line and Spirit」を見に横浜のBankART Studio NYKに向かう。展覧会の案内はかなり前から頂いており、公募形式で作品が募集され、そこに日本人招待作家とベルギーアーティスト13名を加えて展示するという趣向にもとても興味があった。

会場に入ってまず驚いたのが展示会場の大きさ。てっきり一般的なギャラリースペースを思い浮かべていたが、美術館の一室ぐらいはある大きな空間だ。作品数も多く大きな作品もたくさんあったが、広い空間にゆったりと並べられ、迫力のある会場になっていた。

案内をカリグラファーから頂いていたので少し勘違いしていたが、この展覧会はカリグラフィーだけの展覧会ではなく、レターアートの展覧会になっている。コンテンポラリーなカリグラフィーを中心にしながらも、欧文だけでなく和文もあり、書道やレターカッティング、タイポグラフィ、フォントと、文字をテーマに多様な表現方法でアートの領域まで発展させた作品展だ。文字を一つ一つ紡ぎ上げるように繊細に書かれたものもあれば、勢いのある奔放な書風でテクスチャと文字が同化した抽象絵画のような作品まで、いろいろなスタイルの作品を楽しむことができ、それぞれの作品が放つ力にとても強い印象を受けた。国内外問わずこれほどの規模で文字をテーマにしたアート作品が集められた展覧会を見るのは初めてだ。


会場を一通り見終えた後、J-LAF代表の三戸(さんど)さんにお話を伺った。三戸さんはカリグラファーとして活躍しながら教室を運営し指導にも積極的に取り組まれている。今回この展覧会を開催するに至った経緯や、日本でのカリグラフィーの普及やレターアートという芸術にまで発展させ発信するJ-LAFの活動についてお伺いした。日本ではカリグラフィーと言うとまだまだお稽古ごととして捉えられたり、結婚式のウエルカムボードなどが連想されてしまうことが多いそうだが、決してそこにとどまるのではなく、カリグラフィーの表現力の幅広さやアートとしての可能性をもっと広く深く知ってもらいたいという思いが、J-LAFという団体の設立につながったそうだ。

三戸さんをはじめJ-LAFに参加している作家の中には、海外で活躍するカリグラファーを日本に招いてワークショップを開催したり、海外のワークショップにも出かけ交流を持っている方が多いことは知っていた。この展覧会も、もともとベルギーで開催された日本人作家によるカリグラフィー展が現地で好評だったことがきっかけになったそうで、公募形式という企画も加え、より発展した交流展として開催されたとのこと。海外との交流については、海外のカリグラファーからは学ぶことが多いそうだが、日本のカリグラフィー作品も海外では評価が高くなってきているそうで、独特のセンスや書道を取り入れたような作風が海外作家の刺激になっているそうだ。それを証明するように、今回の入選作家の中には多くの素晴らしいカリグラファーが存在し、海外でもプロとして活躍する方までいるそうで、層の厚い作家がいることを知ることができた。

オープニングパーティーにはたくさんの来場者があり、関心の高さがうかがえた。

グランプリ受賞者の橋口さんや入選者の白谷さん、深谷さんにもそれぞれ作品についてお話をお伺いした。グランプリ作品は童話作家のOscar Wildeの「The Nightingale and the Rose」を透明感のあるイタリックと挿絵で本にまとめられた作品。思わず息をのむような美しい作品で、やさしくて余白が美しい静的な印象の紙面だが、全ページに渡って綴られた一貫したスタイルは、芯が通っていて力強い印象を受けた。白谷さんはシェークスピアの言葉を題材にした躍動感あふれるカリグラフィーで、筆で描いたとは思えない線の流れが力強く、感情が真正面にぶつけられたような緊張感を感じた。深谷さんは、オルフェウスの悲劇を題材にしつつも重たいイメージにならないように心がけたそうで、誠実さと気品さがただようシンプルな構成によって、物語のはかなさを感じる素敵な作品だった。

皆さん作品の制作についてだけでなくテーマ内容の解説もしてくださり、内容あっての書体の選択とレイアウトであり、アートと聞くと感情の趣くままなのかと言えば決してそうではなく、デザインに近いアプローチのように思えた。お三方ともイギリスで研鑽を積まれ、橋口さんは現在もイギリスで、白谷さんと深谷さんは帰国しカリグラファーとして活動している。そして世代的にもほぼ同じで、同世代のカリグラファーがたくさんいるということはとてもうらやましい。

その他うれしかったのが海外招待作家の中にElmo Van Slingerland氏の作品を見つけたこと。氏はタイプデザイナーとしても活躍しており、Dutch Type Libraryから、DTL Dorianという書体を出している。海外で買ったカリグラフィーの作品集で偶然見つけ、氏がカリグラファーでもあったことを知った時はとても驚いた。DTL Dorianとはまったく違う奔放な書風と、勢いを出しながらも品のある作品がとても印象に残っていた。出展作品のうち、背筋の通り堂々としたローマンキャピタルにコンテンポラリーなスタイルを組み合わせた作品は、タイプデザイナーらしいというか、Dorianのデザインに通じるようなしっかりとしたプロポーションと線で書かれている。その横には同じ作家とは思えないような奔放な書風のものもあり、幅広い表現力を見ることができた。

左:左壁面に並ぶSlingerland氏の作品。三戸氏によるとSlingerland氏は間際まで作品が送られて来なかったそうだが、結局計10点も送ってくれたそうで、そのうちの6点を展示したとのこと。 Slingerland氏の作品は人気が高いそうだが、最近はデザイナーとしての活動が多く、カリグラファーとしての活動が以前よりも減ったそうで、これだけたくさんの作品が一度に見られることは滅多に無いそうだ。右:右壁面奥2点もSlingerland氏の作品。

日本のコンテンポラリーカリグラフィー、レターアートとしての活動を知ったのはここ数年のことだが、一つ一つの活動が次につながり徐々に大きくなっていることが分かり、しっかりと形を残しながら発展していると感じる。非営利団体として運営するご苦労もあるそうだが、これまでの地道な活動が実を結び、今回の展覧会によってレターアートの認知度がさらに高まるのではないかと思う。

普段パッケージデザインの仕事をする上で、カリグラフィーが活躍できる機会ををいつもうかがっている。商品によってはカリグラフィックなロゴは、フォントには出せないシズル感や品質感を演出できることがあり、クライアントの期待も大きいと感じるようになっている。パッケージデザイナーにも日本にもこれだけ多くのカリグラファーがいることを知っていただき、新たなつながりが生まれてカリグラフィーがデザイン分野でも活躍できるようになることも期待したい。

会期は2009年7月14日まで。お見逃しなく。

左:展覧会リーフレットとDM。Line and SpiritのカリグラフィーはYves Leterm氏。右:展覧会の図録。題字はグランプリ受賞者の橋口恵美子氏。

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