文字モジトークショー01「片岡朗×岡澤慶秀」
土曜日, 8月 2nd, 200814時42分JR五反田駅。暑い…。前回ここへ着た時は大雨。もう一度あの場所へしかも文字の話をまた聞きに行けるのが少しうれしい。
文字モジトークショー01「片岡朗×岡澤慶秀」を見に5tanda Sonicへ。広告やCMでよく見る丸明オールドのデザイナーである片岡朗氏と、ヒラギノシリーズのデザインや游ゴシックなどをデザイン/販売する字游工房のタイプデザイナー岡澤慶秀氏の講演を聞いた。
△左:岡澤慶秀さん(左側)。右:片岡朗さん。
お二方の文字のデザインをするきっかけからトークショーは始まる。岡澤さんとは世代がほぼ同じなので、大学の頃のEmigreやNeville Brodyといったデザイナーのことや、Fontographerが日本に出て来た頃の話が自分と全く同じでとても親近感が湧いたが、ワープロの外字作成機能で卒業制作の書体を作ったというのは驚きだった。とても大変な作業だったのではないかと思うが、どうしてもやってしまいたい時は少々無茶なやり方でも作ってしまうのが学生らしいパワーなのかもしれない。
片岡さんは、展示会のプレゼンボードに文字を書く仕事がのちのち書体をデザインするきっかけとなったそうだ。一つ一つのエピソードが文字づくりの芯になっているように思えた。
そして、今回のイベントのメインとなった書体制作のデモンストレーションへ。
両氏の紹介した書体制作方法は全く異なったものだった。岡澤さんは字游工房での書体制作フローを紹介。漢字は、デザインの基本となる十数文字を下書きしたものをコンピュータに取り込み、それを基に数千字へと展開していくそうで、やはり組織で複数人で作業することを前提とした方法なのか、先日聞いた小塚昌彦さんがプレゼンした方法に近い気がした。
読み込ませた下絵にあわせて手際よくエレメントをくみ上げていき、10分程で一文字が出来上がる。基本となる文字を作れば、「木」や「日」といったパーツが蓄積され、それらのパーツを組み合わせてまた違う漢字が作られる。それを繰り返して文字は一つのフォントとして完成する。大きさが同じに見える点や線も、一つ一つの大きさや太さは異なり、微妙に調整することで同じ大きさに見えるようにしている。それぞれの部首や旁の大きさやバランスを瞬時に判断できるのは、おそらくこれまでの何万文字と制作した経験からくるもので、ご本人は何ともなさげに話していたが、すぐにできるものではないと思った。
△左:基本となる主要な文字「国」「東」を作ると、そこにできたエレメントを使って他の文字へと展開していく。右:下書きされたひらがな「あ」を読み込ませ、手際よくとレースしていく。使用しているツールは字游工房用にカスタマイズされたURW社のBezier Editorというもの。FontLab Studio5にはできない操作がいくつかあり少しうらやましかった。(日本語制作には対応していないが同様のツールがDTL FontMasterにBezierMasterとしてもセットされている。)
一方の片岡氏は全く違う書体デザインのアプローチをデモンストレーションしたくださった。
書体のデザインは骨格にあると言う片岡さん。気に入った全く趣の違う書体を重ね合わせ、浮かび上がった共通項を抽出しデザインを起こす。元となる書体は古典書体であったり普段書くような手書きの文字であったりだそうだが、どうやってその特徴を拾い上げ、さらにデザインとしてまとめるかというのがデザイナーのセンスなのだと思う。全く性格の違う骨格をブレンドすると、まとめるのが苦労するように思える2つをまた別のデザインとして作り出していた。とても大胆なアプローチが興味深かった。
△左:2種類の文字を重ね合わせ浮かび上がる線を探っていく。右:検討されたエレメント
片岡さんは「行けると思えたものを作っていく」と仰ったが、何をもって「行ける」と判断できたかというのが一番関心のあるところだ。おそらくそこが書体の一番の肝になるのではないかと思うが、アイデアスケッチや下書きはなくても画面の中で試行錯誤が繰り返されてその肝をつかみ取り、カタチにしていくのが片岡さんの見せ所になっているのだと思った。
制作のプロセスは話に聞いたことはあったが、ここまで直接的に書体のデザインアプローチと制作方法を見たことは無かったかもしれない。しかもそれをライブで見ることができたのはとても面白かったと思う。トークショーではあったが文字づくりを「魅せる」イベントとなっていてとても楽しむことができた。