Archive for the ‘Shotype’ Category

トークショー『資生堂・サントリーの商品デザインを語る』

日曜日, 5月 31st, 2009

13時46分上野公園。雨の降り出しそうな中、東京芸大へ資生堂・サントリーの商品デザイン展、トークショーに向かう。

30分前には入ったのに大きめの講堂は既に満席となっていて、やむなく通路で立つことにした。東京芸大での開催とあって学生が多かったのかもしれないが、資生堂、サントリーが語る商品デザインというものが注目されていることがうかがえた。

この展覧会の発端の紹介から始まったトークショーは、両社の熱い思いが込められた充実した内容のもので、展覧会の経緯やデザインに対する取り組み、なかなか知ることができないインハウスデザイナーの実態や組織構成まで紹介され、予定された1時間半を遥かに超えて2時間以上にも及んだ。展覧会の準備は既に一年以上前から始まったそうで、展覧会のタイトル一つをとっても、どちらの社名が先か、パッケージデザインではなく商品デザインとした理由も紹介され、企画の全てにわたって綿密に議論されたそうだ。両社内の稟議の様子や、両者の思惑、展示商品の選定など、お互いが相手の出方をうかがいながらも、思わず笑ってしまう意地の張り合いのような話も飛び出し、企画の最中から熱い火花が散らされていたことが分かった。展覧会のタイトルには「vs.」という文字こそ書かれていないが、まさに「対決」と言っても良いような、異業態でありながらデザインに対する取り組みにおいてはライバル企業として互いに意識していることが感じられた。

もうひとつおもしろかったことは、関西と関東のぶつかり合いとも思えたこと。サントリーからは、関西出身の企業、商人であるという自負がうかがえ、「やってみなはれ」に代表されるように、関西弁の中に含まれる絶妙なニュアンスが会社の核となっているようにも感じられる。サントリーデザイン部長加藤氏が商品づくりの要素として話すように、おもしろさではなく「おもろさ」が活き活きと商品にデザインとして落とし込まれているし、このトークショーでさえ、エピソードそれぞれに何か一つ笑いを持ってこなければ気が済まないような「質:たち」「サービス精神」が会社の活力となっているようにも思えた。

一方資生堂は東京・銀座が発祥という品格やプライドのようなものが感じられ、そういった社風や精神が洗練された美意識やデザインに現れているように思えた。逆に言えば資生堂のその姿勢が、今の銀座のありようを作ったとも考えることができる。展示では、資生堂、サントリーが交互に並べられ、一見どちらのものか分からないほどデザインの共通項を感じるものもあるが、実は根底には異なる精神、社風が流れていて、そこには関西、関東というよりそれぞれの発祥の地、大阪、銀座が凝縮されているのかもしれない。

両社が違った気質を見せる中で、一つ大きな共通項と言えば、どちらの企業も西洋文化を日本に取り込み、生活に定着させ、文化にまで発展させ、さらにデザインにおいては「日本:JAPAN」を世界に発信している企業だと思うこと。デザインでのライバル意識がパッケージデザインにおいても日本を代表する企業にまでになった要因なのではないかと思う。

奇しくもどちらの企業も、書体についてもこだわりを持つ企業である。資生堂は資生堂書体を、サントリーはコーポレートフォントを持つ。資生堂は、パッケージに広告にと資生堂書体を用いて、ブランドイメージの構築に活用しているし、サントリーはコーポレートフォントがブランドツールとして会社外だけでなく会社内の意思統一や連携に貢献していると聞く。今回は商品デザインという切り口で行われた展覧会だったが、きっと両社とも「文字・ロゴ・書体」という切り口でもとても魅力的な発表ができる企業なのではないかと思う。

左:東京芸術大学美術館陳列館前。 右:展覧会リーフレット(裏面)と図録。誰が関わったかを明確にするためにデザイナーをクレジットした資生堂と、サントリーという企業を見てもらいたいということでクレジットしなかったサントリー。ここでも企業の姿勢が分かれる。10年ほど前にロゴでサントリー社に関わらせてもらったものが掲載されていた。長い歴史の中に一つでも関わることができたものがあるのはうれしい。

鉄道デザインと文字

日曜日, 5月 10th, 2009

23時からTBS系で放送された、デザイナー水戸岡鋭治氏を取材した番組を見ることができた。

4年前に取材のため久しぶりに九州に行き、昨年も行く機会があった。JR九州全域に水戸岡氏がデザインした鉄道車両が走っている。新幹線『つばめ』をはじめ『リレーつばめ』『Sonic』『かもめ』『ゆふいんの森』など、とても斬新なデザインの車両と出会うことができ、旅行の楽しさを増してくれた。通勤電車も都会的なデザインだし、一時間に一本というようなローカル線の駅で待っていても、斬新な真っ赤な車体デザインの車両がやってきて驚かされる。車両のデザインだけでなく、それぞれのロゴや文字のあしらいもユニークで、文字を見ているだけでもワクワクとしてくる。



↑九州新幹線:つばめ 車体の回り込みといった目につきにくそうな所まで、きめ細やかにロゴや文字がレイアウトされている。


↑九州新幹線の未開通区間、博多〜新八代をつなぐリレーつばめ。


ソニックにちりん 右上:ユニークなデザインの客席ヘッドレストをシンボル化したマーク。 左下:床板にロゴが刻印されている。

ゆふいんの森 右:運転席と客室の仕切に施されたロゴ

↑熊本と別府を結ぶ九州横断特急。途中にスイッチバックもある阿蘇の山間部を抜ける路線を走る。


↑特急の他、ローカル線や通勤車両もナンバリングや、車両表示がかっこいい。Helveticaは車両表示によく使われるが、こう使われるとまたひと味違って見える。

フリーになって間もない昨年、紹介を得て水戸岡氏の事務所にお伺いすることができた。紹介があったとはいえ、2時間以上も話を聞いて下さり、また、これまでの仕事のことなどを聞くことができ、一つ一つが重みのあるお話だった。ロゴや車両を飾る文字群は、決して予算が出ているわけではなく、ほとんどが自主的に提案されているそうだ。車両デザインには文字が欠かすことができず、それらをレイアウトしていくことも車両デザインとして重要だと仰っていた。確かに氏がデザインした列車は、車両番号を単純に表示するのではなく、グラフィックとして取り入れたり、ロゴのデザインも遊び心があったり、目につきにくそうなところの表示まで手を抜くことが無い。そして何より、常に子供たちが見ているこということが考慮され、楽しく、かっこ良くデザインされているように思える。氏を取材した番組でも、常に子供たちの視点を最優先に考えているように思えた。子供の頃に心ときめかせたブルートレインは姿を消してしまったが、JR九州のようなデザイン列車が今の子供たちの心に残って、次の代へと続いて行くのだろう。

子供の頃、近くを走る新幹線と阪急電車を見て描きテツに始まり、大学生になった時はプロダクトデザイナーになって地元のアルナ工機か近畿車両に就職したいと思っていた。いつのまにか文字に関わることになったが、いつか文字の側から車両デザイン、鉄道サインなどの仕事ができたらと思っている。

おすすめ amazon.co.jp
ぼくは「つばめ」のデザイナー—九州新幹線800系誕生物語』水戸岡鋭治著

アイスの日

土曜日, 5月 9th, 2009

5月9日は『アイスクリームの日』だそうです。最近こんなロゴとパッケージの仕事をしました。これから暑くなりますのでよろしかったらお楽しみください。

CD: 江崎グリコ広告部デザイン AD: 株式会社イングアソシエイツ Lo&D: Shotype Design

眼の前のニンジン

水曜日, 2月 4th, 2009

買った。どどーんと来た。今話題の書籍から汚れてしまって買い直したものまで。でもしばらくこのラップは開けられそうに無い。開けたら最後、やらなければならないことができなくなる。もう二週間もこの状態。

海外のサイトから買うことも多いが、なんだかんだ言ってもアマゾンが手軽だし、シッピングの不安も少ないので利用することが多い。在庫のあるうちに買わないとすぐに無くなって、再版まで時間がかかるものもあるので、手に入るうちに購入するようにしている。最近の為替の影響で、買ったときから既に計2000円ほど価格が下がっているのを見て凹んでしまうということもありますが…。

ここ数日、日本でも文字に関する書籍が相次いで出版されていて、気になっているものがたくさんある。書籍のコーナーも設けたいなと思ってちょこちょことまとめてるがなかなかカタチにならず。このニンジンたちも視界の隅に置きつつもう少し我慢。

2009年も宜しくお願いいたします。

金曜日, 1月 16th, 2009

2009年もはや半月が過ぎる。遅ればせながら今年も宜しくお願いいたします。今年はサイトを少し拡充したいという思いもありつつ、時間を決めてしっかりやらないと、いつまでたっても進みそうになく…。昨年から行っている富岡八幡宮へしっかりとお参りをして、目標に向かってコツコツとまいります。今年はどんな文字の出来事と出会いがあるのかと楽しみにしつつ。

北京五輪開会式

金曜日, 8月 8th, 2008

文字が出て来てちょっとうれしかった。カウントダウンで漢数字が出て来た時はちょっと鳥肌が立った。

2008年8月8日午後8時(現地時間)と、中国の人が好きだという8づくしの日に披露した開会式のアトラクション。文字が出るたびにぐいぐいと引き込まれる。活字に見立てた張り子の一つ一つがドットになって文字を浮き上がらせる。「和」だ。カタチが少しづつ変わりなじみのあるカタチに。字体の歴史を振り返ったのか。

入場行進順もアルファベット順ではなく国名を中国の国名表記に置き換えて、画数の少ない順番に入場したそうでとてもユニークだ。中国では五十音やアルファベット順などの換わりに画数順が一般的なのだろうか。画面の英語表記の横に中国語表記があればもっとわかりやすかったんだけど。

Beijing 2008と筆文字で表現されたロゴが発表されてからずっと気になっていた。アルファベットを無理してあわせているように見えるからだ。アルファベットは用いずに漢字を用いて自国の文化を表現したアトラクション。漢字になじみのある自分にとってはとても親しみがあったが、漢字になじみの無い人にとってはどう見えたのだろうか。

カリグラフィーとの距離

金曜日, 8月 8th, 2008

17時48分大手町駅。普段習い事で乗り換えるだけの駅にて初めて降りてみる。

第四回 MG SCHOOL作品展『カリグラフィー・スイスをたずねて 』を見に出かけた。スイスをテーマに様々な書体で作品が作られており、一つ一つの作品の完成度の高さに圧倒されて帰って来た。

△会場となった東京大手町・ギャラリーパレス

一年半前、この作品展に選ばれることを目標に、かなり時間をかけて準備して下書きまで行きながら、結局完成させること無くこの日を迎える。三年前上京した時の目標の一つでもあったのに、参加しようとせずにただの観覧者を選んだ。ただ逃げただけのようにも思う。当時クラスメイトで目標としていた方々やスクールを通じて知り合った方々はどんどんと上達してさらに遠い存在となってしまった。一度途切れた糸をもう一度ピンと張らせるのは簡単なことではないと思っていたが、この展覧会を見てさらに大変だということを思い知らされた。淡々とレポートするつもりだったが少し思いが強くなって冷静に見れないまま帰途につく。あんなに一生懸命になっていたカリグラフィーとの距離が今少し遠い。

10分=600秒

火曜日, 6月 17th, 2008

あれよという間にTypeCon Buffalo開催までいつの間にか一ヶ月を切り、時間とは経つのが早いなと感じる。今年は去年より開催が二週間程早く、余計にそう思うのかもしれない。あいにく今年はTypeConには行けそうになく、さてどうしようかと気持ちだけがフワフワしている。

TypeConブログには今年のType Critiqueの要項が案内されている。昨年同様Matthew Carterさん、John Downerさん、小林章さんの三氏を迎えて行われます。受付方法がこれまでより若干変更され、まずは初めての人を優先しようということのようで、席が空いていればこれまで参加したことのある人も登録できるようです。「また行って修正を見てもらおうと企んでることがバレたか?」と思いつつ、今年は行けそうに無いのでもう心配しなくていいか…。

その他の要項はこれまで通り、

・持ち時間10分
・1書体のみ(ファミリーでの提出はダメ)
・プリントアウトしたものを提出(ノートパソコンなどでのプレゼンはダメ)
・もちろん英語で質疑応答。(小林さんが居るから日本語で大丈夫という訳にいきません。John Downerさんに「ちゃんと英語でやってくれよ」とクギを刺されます。)

昨年は、こういうルールを知らないまま行ってしまい、ロビーに貼ってあった要項を見て慌てて前の晩にホテルで編集し直した。英語は片言英語だった上、緊張してほとんど喋れませんでした。批評してくださるお三方用にプレゼン用のシートは3部あった方がいいかもしれません。枠は10席しか無いので早めに応募名簿を見つけて名前を書き込みましょう。

10分と聞いて短いと思っていたが600秒と思えば長く感じる。終わった後で今までで一番貴重な10分だったかもしれないと思った。

関連記事:
TypeCon 2007 Typecrit video

Ianさんとの文字茶会

土曜日, 5月 31st, 2008

JR新宿駅東口改札前15時07分。待ち合わせに現れないIanさん。仕方なく電話してみる。英語がネイティブの方に自分から電話するなんて初めてじゃないだろうか。すぐに電話は通じて中央東口で待っていたようだ。メールでの書き方が悪かったかな。遠くから大きな体を揺らしてIanさんが歩いてくるのが見えた。

4月上旬に初めてお会いしてからメールでやり取りをはじめ、お互い都合がつかず流れてしまわないか心配だったが、ようやく実現したティーミーティング。折角の機会だしと思って小澤さんと出版社に勤めていて欧文書体にも詳しい吉野さんを誘って文字がらみの話を楽しもうと企画した。

あいにくの雨のなか数件歩き回ってようやくアルタ横のカフェに陣取る。お互い自己紹介をして一人づつ作っている書体を見せたり携わってる仕事のことなどを紹介しながら、いろいろと質問をやりとりした。話は脱線するし適宜質問するし雑談的にできたのがよかった。

Ianさんは日本にある文字に関するうわさ話も良く知っているし、小澤さんの書道についてもいろいろと聞いていたし、仕事で日本語のテキストを使うこともあるらしく、吉野さんが持って来た小説の組みの句読点のアキについて質問していた。当たり前と思っていることも、違う視点から見れば「なんで?」ということがわかっておもしろい。

自分の作品の英語での説明など反省は多かったが実現できてよかった。日本にも海外から来た文字に関心の高い人がたくさんいて、今回のことできっかけを大切にすれば広がって行く実感が得られた。また企画してみようと思う。

ところでIanさんによると今年のTypeCon会場はBuffaloはやっぱりちょっとおっかないらしい。下調べでいろいろと調べてBuffaloには観光名所もあまりも無いらしいし、治安がやや不安定らしいというのも知っていたが、実際に話で聞くと臆病者の性格が想像を膨らませてしまい余計心配になった。

TypeCon 2007 Typecrit video

金曜日, 5月 23rd, 2008

昨年初めて出かけた海外のタイプコンファレンスTypeCon 2007 Seattle。その際に受けてみた10分間書体批評(10 minutes type critics)の模様の音声がYouTubeにアップされています。

TypeCon Seattle 2007: Typecrit 1 of 4

その場ですべてを聞き取ることは無理だろうと思い、iPodを使って全ての参加者の批評を録音。その音声をもとにEben Sorkinさん(彼もCritique参加者の一人)が写真やその時に使った書体見本などをうまく編集してまとめてくれました。

この10分間書体批評はMatthew Carterさん、John Downerさん、小林章さんの3氏が参加者が制作した書体を10分間で批評してくれるというTypeCon恒例となったイベント。10人の参加者それぞれに与えられた時間は10分。3氏それぞれの書体についての意見が交わされ、時には観客からの質問も飛び交います。


写真:コンファレンス会場受け付け横に張り出されたCritic申し込み用名簿。参加したい人が自分で書き込みます。現地でどうやって登録すればよいかわからず気がつくのが遅く、いつの間にかこの紙が張り出され、10人全てが埋まっていた。しかし、次に見に来た時に誰かが参加を取りやめていたので、あわててそこに自分の名前を書き込んだ(3番目)。

このイベント自体に参加して直接批評してもらうこともとてもよかったのですが、他の参加者への批評もとても勉強になります。こういう書体の時はこういう所に気をつけるのか、こういう所を見比べると全体を判断しやすいのかといったポイントをたくさん知ることができ、見るだけでも十分価値があると思います。

驚いたのは参加者の中にTDCで受賞したこともあるGabriel Meaveさんや、バウハウス大学でタイポグラフィーを教えているJay Rutherfordさんなど、現在活躍するデザイナーが多く参加していたことです。書体についていろいろな人から意見をもらおうという積極的な姿勢がうかがえます。

またこの時はGabrielさんを含め3人のメキシコの方が参加していましたが、どの書体もユニークかつ完成度の高い書体ばかりで、レベルの高さがうかがえました。来年のAtypIはメキシコで開催されるそうで、さらに書体デザインへの関心が高まっていくのではないかな。

最後のパーティーのときにJohn Downerさんに「修正してまた持っておいでよ。」と声をかけてもらった。今年の開催都市はBuffalo。行ったことのないAtypIにするか迷う。

追記:Typophileでの関連スレッド
TypeCon 2007 Typecrit video